グドール先生の
『番外編*第2』


「パールハーバの裏話」


映画「パールハーバー」を観て感動した。攻撃シーンは生々しく、優れた特撮技術により、真珠湾攻撃時の様子が良く伝
わってくる。敵の攻撃を逃れて海の中に潜っても、尚飛んでくる銃弾のシーンは迫真だ。この映画に関して日本側から差別

用語に関する抗議があったらしいが、当時のアメリカ側の心情を伝える意味では欠かす事ができず、問題はないように思

う。しかしこの映画を観て後、真珠湾攻撃と、この映画にも描かれている、その後のドゥリトル爆撃隊東京爆撃の後に

「小説よりも奇なる」ストーリーがある事を知った。それは真珠湾空中攻撃隊の総指揮官淵田美津雄とドゥリトル爆撃隊爆

撃手のジェイク・デシェイザーのストーリーである。


「パールハーバー」にも登場する淵田美津雄は、その後も太平洋戦争で活躍し、終戦時には連合艦隊参謀になっていた。

終戦後、故郷の関西に戻り農業を営むが、戦犯裁判が始まり、証人として横浜の占領軍軍事法廷に喚問される。世界に先駆

けて戦争放棄を宣言した日本の国民として、全人類に対する憎悪に終止符を打たなければならないと理念としては思いつつ

も、淵田の感情は別だった。戦争裁判は、勝者が敗者に対して行う、法に名を借りた復讐であると見て、淵田は反感と憎悪

で胸を燃やす。そんなある日、淵田は所用があって渋谷駅に下車する。駅前に出ると、一人のアメリカ人が道行く人々にパ

ンフレットを配っていた。行きずりに渡されたパンフレットを眺めてみると「私は日本の捕虜でした」と題してあり、一人

のアメリカの軍曹の写真が掲載されてあった。それが何と、あのドゥリトル爆撃隊のデシェイザーの手記だった。


手記を読んだ淵田の心は動いた。淵田が360機の爆撃機を従えてパールハーバーの上空にいたあの時、ジェイク・デシェ

イザーはカリフォルニアにある軍事基地で一アメリカ兵として台所当番に当たっていた。ラジオを通して真珠湾攻撃の

ニュースを聞いたデシェイザーは、持っていたイモを壁に叩き付けて「見ていろよ、ジャップ!ただじゃすまないから

な!」と叫んだ。一ヶ月後デシェイザーは、ジミー・ドゥリトル爆撃隊に志願する。この爆撃隊は映画にも描かれている、

空母ホーネットから東京に向けての奇襲作戦だった。1942年4月18日、デシェイザーは爆撃手として爆撃機の一つに乗って

おり、復讐をする事ができる事で意気揚々としていた。東京爆撃の後、中国に向うが、燃料がなくなり日本軍占領地にパラ

シュートで舞い下りる。翌朝デシェイザーは日本軍の捕虜となり、その後南京で約三年半、獄中で虐遇される。獄中で彼は

なぜ人間同士がこうも憎み合わなければならないのかと考え、「人間同士のこうした憎悪を真の兄弟愛に変えるキリストの

教えというものについて、かつて聞いたことに心が向き、聖書を調べてみようという不思議な欲求にとらわれた。」1944年

5月に、看守が差し入れてくれた聖書をデシェイザーはむさぼるように、くり返しくり返し読んだ。聖書が単なる歴史的名作

以上のものであるあることを発見した彼は、イエス・キリストを心に迎え入れる。


自分を捕らえ拷問した日本軍に対する彼の態度はすぐに変わった。憎しみは愛と配慮に変わり、自分を変えた聖書を、やが

て日本の人々に伝えたいと願うようになる。そしてその通り、戦後アメリカに戻ったデシェイザーは神学校で学んだ後、宣

教師として日本に戻った。


これを読んだ淵田は、理解しがたいことと思いながらも、自分でも聖書を読みはじめ、あちらこちらとさぐり読みしている

うちに、十字架上で自分に槍を刺そうとする兵士たちのためにとりなしの祈りをするキリストのことばに出会う。「父よ、

彼らをお赦しください。彼らは何をしているのか自分でわからないのです。」この祈りは自分のために祈られたものだと淵

田は強く感じ、「私は愛国心の名のもとで多くの人を殺した。


それは、キリストがすべての人の心に与えようとしている愛を知らなかったからだ。」と思い、目頭がジーンと熱くなり、

大粒の涙がポロポロと頬を伝った。1950年4月12日、淵田はイエス・キリストを救い主として受け入れた。


淵田の回心はやがて主要新聞の見出しに載り、アメリカ側を喜ばせるための日和見主義者だなどと批判されたりもしたが、

時の流れと共に彼の回心が本物であることが証明された。淵田は人生の最後の25年間を伝道者として、日本全国とアジア

各地、そしてついには敵国であったアメリカに渡り、神との平和によって見いだされる愛と赦しのメッセージを多くの人々

にのべ伝えたのである。


真珠湾を爆撃した日本人が、その報復として日本を爆撃したアメリカ人の手記によって回心し、アメリカの回心者が日本に

来て伝道し、日本の回心者がアメリカに行って証しをするとは何と奇遇なことだろう。悲惨な戦争の背後にこのような事実

があったことを知り、感動を禁じ得ない。日本とアメリカの間には太平洋がある。日米間に和解をもたらし、この太平洋を

本当に太平にするのは神の愛しかないのである。今度は「淵田・デシェイザー・ストーリー」が映画化されるべきだ。



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